Page 3 - 東京都公立大学法人 環境報告書2024
P. 3

理事長挨拶 気候と環境の非常事態は教育の非常事態 世界の大学は既に熱波、干ばつ、豪雨、森林火災などの深刻な影響を受けて おり、安全で継続的な教育が脅かされています。一方で、危機を突破するため、 あらゆる学問分野を総動員し、公正で持続可能な未来を実現するための研究を 推進するとともに、何よりも気候・環境教育により、社会変革の人材を育成す ることが急務になっています。 2023 年7月6日に1日あたりの世界平均気温は 17 08°Cと観測史上最高値 を記録しましたが、2024 年7月 22 日には 17 16°Cとあっという間に更新さ れてしまいました。恐るべきことに、昨年6月以来、今年の6月までの 13 か 月間、毎月の世界平均気温は観測史上の最高値を連続して更新し続けてきまし た。2023 年の世界の平均気温は産業化前より 1 45°C高く、2024 年はパリ協 定の 1 1 5°C目標を突破する最初の年になるかもしれません。1 5°C目標が突破さ れる事になれば、地球システムの4つの気候転換点を超える可能性が高くなり ます。大西洋子午面循環(AMOC)は早ければ 2025 年あるいは 2037 年頃 から崩壊する可能性があるとする研究も発表されています。また、生物多様性 の急速な減少も人間活動の拡大と資源消費量の増大が主要な原因とされていま す。 このように気候と環境の非常事態に直面して、世界の大学は教育、研究、経営の変革を開始しています。ここでは、教育における 最近の取組についていくつか紹介します。 ▪ コロンビア大学は、2020 年に気候スクールを設置 ▪ ユトレヒト大学は、気候非常事態における学生のエンパワーメントを目的とする USO プロジェクトを開始 ▪ カーチン大学は、環境と気候非常事態についての新学部を設置 ▪ カーディフ大学は、気候変動と社会変革センター(CAST)を設置 ▪ ニューカッスル大学は、気候と環境の回復力に関するトレーニング(CCRE)を開始 ▪ オックスフォード大学は、気候非常事態プログラムによる教育を開始 ▪ ロンドン大学ゴールドスミス校は、グリーンニューディール・カリキュラムを開発 ▪ リンネ大学は、気候非常事態研究センターを設置して教育を実施 ▪ ファルマス大学は、気候と SDGs を全てのカリキュラムに反映させる手法を開発 ▪ バルセロナ大学、UWE ブリストル大学、カリフォルニア大学サンディエゴ校は、気候教育を必修科目化 ▪ インドの全大学は、2024 年より気候教育を卒業のための必修科目化 ▪ ストーニーブルックス大学が中心となって、大学、企業、NGO のネットワークによりニューヨーク気候取引所(New York Climate Exchange)を設置し、ガバナーズ島で気候ソリューションの教育、研究、インキュベーション職業訓練を開始 ▪ イリノイ大学は、気候雇用研究所を設置 ▪ 聖心女子大学は、グローバル共生研究所で環境、ESD 教育を実施 ▪ 国際基督教大学は、リベラルアーツとしての気候・環境教育を実施 ▪ 東京都公立大学法人は、サステナブル研究推進機構を設置し、PBL による気候・SDGs 教育を推進 死んだ惑星には研究も教育もないのですから、高等教育機関は気候と環境の非常事態を乗り越えるための研究と教育に全力を尽く さなければなりません。 東京都公立大学法人は 2021 年7月に気候非常事態宣言を、2024 年7月にネイチャーポジティブ宣言を、全国の国公立大学で初 めて発出しました。地球の気候と環境が非常事態であることを公式に表明し、この危機を乗り越えるために全力を尽くすことは法人 の高等教育機関としての社会的責任であり使命です。今回、この報告書には主に 2023 ~ 2024 年度における教育活動、研究活動に 関する取組と成果をまとめています。ぜひご一読いただき、本法人の取組の一端に触れていただければ幸いです。 2 東京都公立大学法人 理事長 山本 良一 


































































































   1   2   3   4   5