気候非常事態宣言発出3周年にあたって

2024年7月16日

東京都公立大学法人
理事長 山本良一

 本法人は2021年7月16日に、全国の国公立大学で初めて気候非常事態宣言を行いました。2023年10月30日の米国ワシントンポスト誌によれば、気候非常事態や気候危機に関する学術論文数は、2015年には32だったものが2022年には862に増加したと報じられています。この危機意識の拡大は大学の研究のみならず経営や教育にも及びつつあります。今や世界の30余りの大学はカーボン・ニュートラルやカーボン・マイナスの第3者認証を受けています。スペインのバルセロナ大学や米国のカリフォルニア大学サンディエゴ校は2024年より気候変動に関する科目の修得を学生に義務付けました。英国のエクセター大学では気候非常事態への対処(Managing the Climate Emergency)という講義モジュールも用意されています。

 昨年から今年にかけて地球気候が非常事態にあることがますます誰の目にも明らかになってきました。

  1. 2023年の世界の平均気温は観測史上最高の14.98℃を記録し、産業化前と比較して1.45℃上昇しました。パリ協定の1.5℃目標達成は今や風前の灯火です。2023年6月から2024年6月までの13ヶ月間連続で、毎月の世界の平均気温は観測史上最高を記録し続けています。世界の海洋の平均表面温度は、2023年3月中旬から2024年6月に至るまでの15ヶ月間、なんと毎日観測史上最高を記録し続けています。2024年の後半にはエルニーニョ現象が終了し、ラニーニャ現象が発生すると予想されていますが、2024年はパリ協定の1.5℃目標を超える最初の年になるかもしれません。昨年以来の世界の異常気象(熱波、干ばつ、豪雨、森林火災など)の多くは、Event Attribution研究によって人間起源の地球温暖化により極端化していることが明らかにされています。
  2. ポツダム気候インパクト研究所(PIK)の最近の報告書によれば、気候変動による経済的損失は2050年までに年間38兆ドル、世界のGDPの19%に達するとのことです。一方、パリ協定の2℃目標を守るためには年間2兆ドルの費用で済むとされており、経済的にもカーボン・ニュートラルを進めた方が賢明です。
  3. Lancet報告によれば、暑さによる世界の年間の死者数はこのままでは2050年までに4倍近くに達し、気候危機は健康危機に直結してしまいかねません。6月に開催された日本プライマリ・ケア連合学会では、これを重視して“プライマリ・ケアにおける気候非常事態宣言(浜松宣言)”が採択されました。世界銀行の予測によれば、このままでは2050年までに世界で約2億人の気候難民が発生するかもしれません。また、6月下旬にClimate Centralから公表されたレポートによれば、6月中旬の9日間で世界人口の60%以上が気候変動による猛暑、熱波にさらされたと結論されています。

 このように地球の気候システムが非常事態を迎えるなかで、持続可能な社会の実現に向け本法人は学生・全教職員の協力を得て、一例ですが次のような取り組みを進めて参りました。

  • 環境報告書2023の作成と公表
  • アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催されたCOP28へ職員を派遣して、教育パビリオン等の調査を実施
  • 2023年12月の環境展示会「エコプロ」へ出展
  • TMUサステナブル研究推進機構でカーボン・ニュートラルに関する研究を推進
  • 国公立大学法人として全国初となるネイチャー・ポジティブ宣言の発出

 わが国がカーボン・ニュートラル、ネイチャー・ポジティブ、サーキュラー・エコノミーを目指してグリーン・トランスフォーメーションを実施しているなかで、本法人は全教職員一丸となって公立の高等教育機関としての社会的責任を更に果たしてまいります。