Page 19 - 東京都公立大学法人 環境報告書2024
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撮影画像と標本の必要性 「Biome」や「BiomeSurvey」を用いて撮影された植物 の生態写真は、撮影日時と位置情報を地図上に示すことがで きるため、都民との連携により広域多地点における植物の分 布情報を集積することが可能になります。ただ、植物を正確 に同定するには、各部の詳細な(時にはルーペや顕微鏡を用 いた)観察や、サイズ計測が必要であり、投稿された生態写 真だけでは不十分です。「Biome」や「BiomeSurvey」で 得られた情報に加えて、実物である植物標本も収集すること で、より正確かつリアルタイムな生物の分布情報を含めた目 録の作成を進めることができます。 なぜ今作成?野生生物目録作成の目的・意義 実はこれまで「東京都」として公表した標本などの具体的 な証拠に基づいた野生生物目録はありませんでした。これは 都立の自然史博物館(または自然史分野を含む総合博物館) が無いため、都内の自然環境や生物多様性を継続的に調査・ 研究する専門家(学芸員)がいないことと、都内で収集され た自然史標本や関連資料が一元的に蓄積・管理されていない ことによると考えられます。 都内の自然環境や生物多様性保全を進める上で、野生生物 目録は最も基礎的な情報源です。例えば、絶滅の恐れのある 種を取りまとめた東京都版レッドリストやそれらを種ごとに BiomeSurveyの画面 植物標本 位置情報と写真を地図上に表示 解説したレッドデータブックを策定・改訂するには、まず全 体像としての目録が無ければ、どの種が「保護上重要」なの かを検討しようがありません。さらにリアルタイムな生物の 分布情報が蓄積されれば、都内各地の自然環境や生物相がど のように変化したかを把握することも可能となり、保全の優 先順位や目標を定める上でも役立つ情報になるでしょう。 このような自然環境・生物多様性に関する情報基盤の整備 をこの事業で実施することで、ネイチャーポジティブにつな がると考えられます。 専門家から都民へ伝えたいこと 各地で自然観察や保全活動を実践している都民や団体の方は、その地域の野生生物に関する情報や標 本・文献などの資料を数多く所有されていることが多いものの、いずれ散逸して失われてしまうという リスクを抱えています。この事業を通して、そのような方々の活動を支援するとともに、得られた情報 や資料を適切に保管・整理して、様々な学術研究や保全事業に活用する仕組みを構築したいと考えてい ます。本プロジェクトで作成する「東京いきもの台帳」は、地域の「お宝マップ」のようなものでもあ り、これを通して都民の方々が地域の自然への関心や理解を深めるとともに、その価値を未来に引き継 ぐ取り組みにつながることを期待しています。 東京都立大学理学研究科生命科学専攻 加藤 英寿 助教 小笠原諸島における植物の由来、種分化、生態の調査、東京都の維管束植物相調査、植物標本データ ベースの構築などをテーマに研究を行い、研究のほかにも、牧野標本館における植物標本の収集・整理 なども担当しています。 18