Page 24 - 東京都公立大学法人 環境報告書2024
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東京都立大学 環境に配慮した研究 シアノバクテリアを利用した 大気中の二酸化炭素と窒素ガスからの有用物質生産 理学研究科 生命科学専攻 得平 茂樹 教授 私は微生物分子生理学を専門としており、シアノバクテリアの環境適応機構を解明すること で、環境応答やそれに伴う細胞分化の制御の仕組みを分子レベルで解明することを目指してい ます。 シアノバクテリアは光合成を行うバクテリアですが、ここではシアノバクテリアを利用した 大気中の二酸化炭素と窒素ガスからの有用物質生産について紹介します。 食品や医療、バイオテクノロジーなどの分野で活躍が期待されるシアノバクテリア シアノバクテリアは、光合成を行うバクテリアです。一つ の細胞の大きさは2~3マイクロメートル程度と肉眼で見る ことはできませんが、湖や池、海だけでなく光が当たり水を 少しでも利用できる場所であれば、砂漠や温泉、氷河などを 含めたあらゆる場所に生息する身近なバクテリアです。祖先 は約25億年前に誕生したと言われており、現在地球上に数 千種類いると言われています。シアノバクテリアの中には古 くから食料として利用されてきたものがおり、現在も健康食 品や食用色素として利用されています。また、わずかな無機 塩と光だけで大量に培養できるため、宇宙空間で生産可能な 宇宙食としての研究開発も進められています。さらに、光合 成を利用して、太陽光エネルギーによるCO2を原料とした医 薬品やプラスチック、バイオ燃料などの生産技術の開発も行 われており、シアノバクテリアは食品や医療、科学(バイオ テクノロジー)などの分野での活用が試みられています。 シアノバクテリアの更なる可能性 多くのシアノバクテリアは光合成により CO2を取り込む だけでなく、大気中の窒素ガス (N2) を取り込む窒素固定も 行うことができます。つまり、光エネルギーを使って、大気中 の の CO2と N2から有機化合物を合成しています。大気の8割 は は N2ですが、N2を直接利用できる生物はごく一部の原核生 物に限られており、ほとんどの生物は N2を利用することが できません。しかし、我々の生活には、化学肥料や医薬品、化 学製品など窒素を含む化合物が欠かせません。これらの窒素 化合物はアンモニアを原料に作られますが、現在アンモニア シアノバクテリア 現在の地球上には、細胞の大きさや形態、そして生理的特徴が 異なる数千種類のシアノバクテリアがいると言われています。 この写真には4種類のシアノバクテリアが写っています。 は膨大なエネルギーと化石燃料を消費して化学的に合成さ れています。これまでのシアノバクテリアなどの光合成生物 を利用した物質生産の研究では、大気中の CO2を原料として 利用することで、サステナブルな物質生産を実現することが 目指されてきました。しかし、シアノバクテリアを利用する ことができれば、大気中の CO2だけでなく N2も原料として 利用することができ、よりエコフレンドリーな物質生産系に なるのではないかと考えられます。 23 


































































































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