Page 26 - 東京都公立大学法人 環境報告書2024
P. 26

東京都立大学 環境に配慮した研究 夏季アジアモンスーンにおける降水の将来変化 都市環境科学研究科 地理環境学域 高橋 洋 助教 私は気象・気候学を担当しており、地球規模・領域規模の水循環、アジアモンスーン地域の 雨や雲の気候変動、地表面状態による降水特性への変化、地表面改変による地域気候への影響 などを対象として、人工衛星による地球観測・気候シミュレーション・AIなどを利用して、気 象・気候現象や気候変動を研究しています。 ここでは、日本を含めたアジアの気候変動の科学的な理解を目的とした夏季アジアモンスーン 域での降水の将来変化について紹介します。 気候変動・異常気象の影響 近年世界各地で、気候変動による地上気温の上昇が報告さ れており、夏季の地上気温の上昇は、熱中症リスクの増大や 電力の需要逼迫など、私たちの健康や生活に大きく影響しま す。 日本を含む東アジアに自然災害を引き起こす梅雨前線の降 水活動が、最近10年間は非常に活発であることを、長期間 の人工衛星観測により明らかにしました。これは、2020年 に九州地方に甚大な被害をもたらした令和2年7月豪雨にも 密接に関連しています。 アジアモンスーン域での降水量の将来変化に注目 世界的に人口が集中しているアジアモンスーン域におい て、夏季の降水量の将来予測は重要な課題です。アジアモ ンスーンの変動は、日本の天候とも密接な関係があり、例 えば前述の令和2年7月豪雨や2018年の西日本豪雨、他 にも現在発生している猛暑はアジアモンスーンの降水量変 動との関係が指摘されています。これは、対流圏下層に西 風が吹き、これに伴い多量の降水がもたらされるため、ア ジアモンスーン循環は、梅雨などを含めて日本の天候を直 接的に説明する要素の一つです。 これらの降水現象を正確に表現するために、高解像度の気 候シミュレーションが必要であり、本研究では、全球の雲の 生成・消滅を経験的な仮定を用いずに物理法則に従い直接計 算できる全球雲システム解像大気モデル「NICAM」による シミュレーションデータを用いました。これにより、積乱雲 などの対流性の降水現象や熱帯低気圧に伴う降水などを直 接的に計算することができ、解像度の粗い従来の気候シミュ レーションに比べて、より現実に即した雲や雨の形成プロセ スのもとで、アジアモンスーン降水の将来変化を予測するこ とができます。 今後、気候変動による世界的な異常気象が増加する可能 性があり、私たちの身近なところでさらに大きな影響を及ぼ すものとなるかもしれません。そのため、私たちは変化して いく気候に対して防災対策を処置するなど、環境変化に適応 していく必要があります。気象・気候学のシミュレーション の研究で、実際の気象・気候現象をうまく再現できると、気 象・気候の仕組みに迫ることができ、気象予報の改善や大型 台風・豪雨時の防災対策に役立つことが期待されます。 衛星観測データ・シミュレーション・AIなどの 気候変動の解析中のスクリーンショット (プログラミングを使用) 25 


































































































   24   25   26   27   28