Page 34 - 東京都公立大学法人 環境報告書2024
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東京都立産業技術大学院大学 環境に配慮した研究 未来の移動をデザインする 産業技術研究科 高嶋 晋治 教授 私は「広義のデザイン」による、未来の社会環境、産業、生活のための価値や仕組みづくりを テーマに研究を行っています。 ここでは、「質的」な移動の価値に着目しそれにより人々を「幸せ」にすることをコンセプトに、 「未来の移動をデザインする」というテーマで PBL(Project Based Learning) として展開した 内容を紹介します。この研究プロジェクトは、予測が難しい時代の未来を「こうしたい!」という ゴールからバックキャストで考え、具現化させることを目的にしています。 「移動の目的」の歴史的考察 人々にとっての移動とは何を意味するのでしょうか。約7 万年前、移動は「食料調達」や「共生」のために行われ始め、「文 明・文化」、「宗教」、「政治」、「経済」の要因でも活発化してきま した。約 50 年前には「娯楽」のための移動が拡大しました。直 近では新型コロナウィルスの流行によるリアルとリモートの 使い分けが浸透し、「移動の意味性」が更に変化したと考えら れます。 「10年後の未来想定」からカーボンネガティブ前提の「移動の価値」の再認識 コンセプト設計と具体化デザインをする際に、「ありたい姿 /あるべき姿」の精度を上げるためにターゲットを設定し、現 在の価値観・目的に捉われることなく、未来を想定しておく ことは重要です。 人の気持ちの変化では 18 歳を対象にしたアンケートから、 生活に不足はないが物足らなさを感じる若者が増えているこ と、移動しなくても不自由はないが変化が欲しいと感じてい ること、世の中の人は地球温暖化を止めたいが、自分に何がで きるかわからないと感じていることが伺えました。 また、現代社会において注目されているのは電動化、再生可 能エネルギー視点ですが、エネルギー問題は人、自然を地球全 体観で捉えないと国家レベルの抗争に巻き込まれることにも なります。そして「酸化反応」の過剰から「還元反応」優位への 転換(カーボンネガティブ)の大目標は、自然環境の適正化と 同時に産業経済活動との両立がないと世の中に浸透していき ません。つまり課題解決だけでなく人々が望む価値創出視点 で考えないといけないと言えます。 移動は早く/速く、安く目的地に着くなどの「量的」価値だ けでなく、楽しかった、興奮したなど記憶に残る「質的」価値の 重要性も大切です。 新しい「移動の価値」の具現化→要件設定とデザイン演出表現 このように製品/サービスのライフサイクル全体における環境性 能は当然の要件となり、そしてそれらの普及を進めるためには、人々 の気持ちの変化や、移動の意識の変化、移動の質的価値といった観点 で新しい「移動の価値」を未来のモビリティに組み込む必要がありま す。こうした背景を踏まえ、コンセプトを今まで知らなかった様々に 出会える「将来エネルギーを考慮した “出会える” モビリティ」としま した。 具現化の必要要件として、「環境性能」をベースに知らなかった様々 に出会える「偶然性」、「不便益」、「癒し」を設定し、その要件を達成する 機能や仕様を定め、「野良猫モビリティ」としてデザインしました。 「野良猫モビリティ」で人々を幸せにする社会に C C 燃料コンセプト CoO22を食べる (DAC) C C 2 2 o O 2 2 CO2を由来の原料へ (コンクリート・ 余剰分 野良猫モビリティ CO2 CO2回収 化学品 etc ) H2 SAF 燃料 水素化/分離 再生可能 水電解 エネルギー CO2を資源にする! 野良猫モビリティが走ると CO2が減る! 将来、「環境性能」は「あって当たり前」の時代となります。 「予測」することは不可能に近いです。しかし未来を意志を 環境問題の解決施策を単独で考えるのではなく、未来の人が 「受け入れたくなる新しい価値」として世の中にインストー ルしないと浸透することはありません。つまり、未来の人、自 然、地球にとって「幸せ」「喜び」とは何か?という次元で考え ることが重要です。何が起こるかわからない時代に未来を 持って「想定」し、その実現に向け準備することは可能です。 目の前の問題を解決するだけでなく、その結果、どんな世の 中にしたいか?そこを生きる人にどんな喜びや幸せがあっ て欲しいか?を考え具現化することが「広義のデザイン」だ と考えます。 33