Page 37 - 東京都公立大学法人 環境報告書2024
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環境に配慮した研究 太陽光発電大量導入に向けた電力需給調整システム ~教育現場からの意識醸成~ ものづくり工学科 電気電子工学コース 川﨑 憲広 准教授 私の研究室では、電力系統運用に関わる電力需給調整システムに関する研究を行ってい ます。特に、再生可能エネルギーの大量導入における課題の解決をテーマとしています。私 は東京都立産業技術高等専門学校で、研究活動を行いながら、研究室に所属する学生ととも に、自ら課題解決に向けて考えて、行動する力の育成や、2025年度にスタートする電気電 子エネルギー工学コースが目指すカーボンニュートラル社会の実現に貢献できる人材の育 成・輩出、意識醸成にも力を入れています。 太陽光発電 システム 発電所 (電力系統) 水素→電気 電力需給調整システム構成図 水素エネルギー等を活用した電力需給調整システム 将来、再生可能エネルギーの大量導入が進む社会が訪 れます。太陽光発電などの設備で大規模に発電された場 合、周波数変動などにより電力の安定供給に影響が生じま す。その課題を解決する方法の一つとして、水素貯蔵を電 力需給調整システムとして活用することが考えられていま す。この方法では、太陽光発電によって発生する余剰電力 を水素に変換して貯蔵し、必要に応じて電力として供給し ます。水素は大容量で貯蔵でき、輸送が容易であるという 特性を持っていますが、変換効率が悪いためロスが生じま す。このため、効率を向上させる手法の検討も必要です。 私の研究では、電力需給が円滑になるような、電力供 給・送配電網のあり方、水素製造・貯蔵の設備の規模な どを電力会社単位で検討するために、主に数値シミュレー ションを行っています。将来の太陽光発電の導入量を想定 し、余剰電力が発生せずに、コストも最小化するような水 素の貯蔵容量や運用方法を提示することで、このシステム の導入可能性を定量的に示せると考えています。一方で、 教育的な観点からは、卓上実験装置(小規模模擬系統)を 作成し、実際に運用できるかどうかを確認する実験を行っ ています。これを通じて、学生たちが回路を設計し、実際 に組み立て、運転することで、課題解決の力を身に付けら れるように、実験手法についても日々工夫しています。 電気→水素 水素 タンク 貯蔵 電力需給調整システム 水電解 装置 燃料 電池 負荷 シミュレーションの際には、太陽光発電の入力エネルギー である日射量のばらつきを市区町村単位で考慮 カーボンニュートラルを実現できる人材を育成・輩出する 前述の研究や高専で学ぶ内容は、学生たちがカーボン ニュートラルを意識するための教育にもつながっていると 感じています。私が教える際には、技術面だけでなく、問 題が何であるか、そしてそれをどのように解決していくか という、課題解決までのプロセスを身につけてもらうこと に重点を置いています。また、伝える力を養うために、プ レゼンテーションで専門外の人にも理解できるように説明 することを意識してもらうよう指導しています。こうした 力は、学生が将来企業に就職した際に、外部へ発信してい く力につながると考えています。 学生たちが柔軟な思考で考え、様々なコミュニティとの つながりの中で得た経験を生かして研究成果を達成してい く姿には、いつも驚かされます。学生時代に培った力を、 ぜひ将来の活躍に活かしてほしいと思います。 カーボンニュートラルを達成するためには、社会全体の 意識を変えていく必要がありますが、電気が当たり前にあ る生活に慣れた消費者にその意識を変えてもらうのは難し いことです。また、それを無理に強制することも適切では ないと考えています。人々が意識せずともカーボンニュー トラルな社会が実現するよう、技術が社会を支える構造を 作り出すことも重要だと思います。私は技術面の研究と人 材育成・輩出を通じて貢献したいと考えています。 小規模模擬系統に よる電力需給調整 の実験の様子 卓上に水電気分解装置、燃料電池、太陽電池、負荷等を配置して接続 し、電力の需給制御を行い、計測によりその動作の確認を行っている 36 


































































































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